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令和4年12月24日公開

2.旧ドリル戦車とDXペーパークラフト

■ 旧ドリル戦車セットの人気

 ドリル戦車セットを中古玩具市場で見かけると、ジャンク品であっても大変な高額となっています。昭和50年のドリル戦車セットは、ロボットマンの追加部品として発売されました。ロボットマンは記録的な大ヒット商品でした。ロボットマン単体でも魅力はありますが、ドリル戦車と合体して本当に土に穴を空けているように見えるコマーシャルの影響はかなり大きかったです。
ロボットマンCM動画へのリンク

当時のSFメカのドリルにもいろいろありましたが、穴など空けられるはずがないことが一目で見てわかるものばかりでした。例えばゲッター2(昭和49年)のドリルには溝がありません。また鋼鉄ジーグ(昭和50年)のマッハドリルには溝も螺旋もありませんでした。


「超合金魂ゲッター2 D.C.」
http://blog.livedoor.jp/tamashii_robot/31271718202020s

「鋼鉄ジーグ」
マッハドリル

 そんな中、ドリル戦車セットにはちゃんと深い螺旋の溝が刻まれていたのです。壁の小物掛けを左に回して取り外すと、ドリル戦車セットのドリルにそっくりなねじ釘が露わになります。そしてそのねじ釘を壁に刺して右に回せば奥へと進んでいきます。ロボットマンドリル戦車セットもこれと同じように穿孔性能があるに違いない、と幼い私達は考え、実際に砂を掘り進めてみたいと思ったのでした。

 ただし、両方を入手できた子どもはあまりいませんでした。ロボットマン本体なら、その後継機も含めて6年もの長期間発売されていましたが、ドリル戦車セットは初代ロボットマン発売時期の初めにすぐ姿を消しました。同時発売のブルドーザーセットはしばらく売れ残っていましたが、人気のあるドリル戦車セットを売っているところを私は見たことがありません。同い年の友だちも持っていませんでした。カタログをうっとりと眺めるだけでした。

 さて、運良くドリル戦車セットを手に入れることができたとしても、この手のおもちゃが本当に地中を掘り進むことが不可能であることは大人には常識です。それでも、全国の子ども達は砂場で穴掘りを試したことでしょう。ドリルの回転が左回りであることがわかると、キャタピラを使わず手で持って柔らかめの砂にドリルを突き刺し、スイッチを逆進に入れると少しだけ砂が揺さぶられるのを見て、「やっぱり穴があいたぞ!」と言い張るのです。

 ドリル戦車セットは、人気の高さからそのモチーフを用いた商品が何度も発売されました。アニメーションが制作された「ミクロマンマグネパワーズ」には、ジェットモグラーという仲間が登場します。右肩に巨大なドリルを備え、4本の爪を持つ左腕はまるでドリル戦車のエネルギーアームのようです。フィギュアブーム、お宝ブームに乗って2001年には復刻版ロボットマンが発売され、ドリル戦車セットも復刻される予定だったと言われていますが、ブームは続かず遂にドリル戦車が復刻されることはありませんでした。その後スーパーコレクションフィギュアACT-2「タカラSFランド」が発売されてロボットマン用ボーナスパーツが付属し、ドリル戦車のミニチュアを作ることができたのがせめてもの慰めでした。

   1976年     ミニロボットマン                       コミックロボメカドン
 
   1999年                           ジェットモグラー
 
   2002年                     スーパーコレクションフィギュアより
 
   2004年                        ランドマスターアラン
 

 このように、ロボットマンドリル戦車セットは長い間少年達のロマンの対象となっていました。そして、ドリル戦車セットのペーパークラフトを作ってほしいという声を聞きました。ペーパークラフトならコピー商品と言われることはないでしょう。勿論ペーパークラフトであってもデフォルメしたりせず、元のドリル戦車の造形とギミックを忠実に再現したいです。ところが、そのようなものを目指すと困ったことが起きたのでした。


■ 旧ドリル戦車セットに見られる欠点の克服

 ファンの憧れの陰で、旧ドリル戦車セットには残念な点が見つかりました。きっかけはロボットマンの復刻が決定した頃、背中のキャタピラが昔の箱写真では取り付け方法が変更され少し開いていることがファンの間で不思議がられていたことです。キャタピラが少し開いて取り付けられるという仕様は、ロボットマン2やロボットマンゴッドファイターにも受け継がれました。


説明書:背中に平行

昭和50年版:少し開く

結局、2001年の復刻版ではキャタピラが平行に取り付けられて発売されました。そして貴重な旧ドリル戦車セットをダニーさんが復刻版ロボットマンに取り付けてみて、謎が解けたのです。キャタピラが胴体と平行だと、回転するエネルギーアームが床にぶつかってしまうのです。これを解消するために、キャタピラを裏返しに取り付けることによって突起を干渉させ、少し開かせたのだろうというのです。復刻版ロボットマンとドリル戦車セットで遊ぶには手直しが必要になります。これ以外にも、ドリル戦車セットには次のように多くの欠点があります。ペーパークラフトではそのまま再現するのではなく、丁寧に改良を施していきました。

旧ドリル戦車セット DXペーパークラフト
ロボットマンに取り付けるとドリルが左に回転するが、ドリルには右ネジの溝が彫ってある
ペーパークラフトは左右反転させての作図が容易であり、旧製品に倣った右ネジ式ドリルと、ロボットマンに合わせた左ネジ式ドリルの両方が制作可能
復刻版ロボットマンにエネルギーアームを取り付けると地面に接触するのでうまく回らない
エネルギーアームの開き方を僅かに小さくして、床にぶつからないようにした
ドリルを組み合わせているネジの穴が目立つ
ペーパークラフトなのでドリルをネジで組み立てなくてもいい
ドリルの部品分割線が目立つ
銀色折り紙で覆っているので部品分割線が見えない
メッキが剥げやすく、元々薄い部分もある
ミラーペーパーや銀紙の輝きは普通に触っても摩耗しない
試作写真ではドリルの先が尖っているが、発売されたものは先が丸い
プラスチックよりも軟らかくて安全なので、尖ったデザインとした
ミクロマンをロボットマンの胸に取り付けるための突起が邪魔して、ドリル戦車本体をロボットマンに合体させるとがたつく
後輪軸受けを薄く設計して突起に干渉しないようにした
車輪が滑らかに回らない    車軸を細い材料で作って回転による摩擦を小さくした
シートの左右にスピンギヤを取り付けるジョイントが凸同士のため、回転できない位置に取り付けることになる
シートの左右に凹ジョイントを設け、丸棒を差し込んで凸ジョイントへの可逆的な変換も可能とした
10 スピンギヤ(後輪)をロボットマンの肩の回転軸に取り付けようとすると、ロボットマンの発売時期によっては短くて届かないことがある
昭和50年頃発売
回転軸が深い旧製品
スピンギヤの軸を2mm長くした(右側)
11 本体の上にエネルギーアームを取り付けるためのジョイント部品だけがメッキのない緑色
ジョイントも銀色で作製
12 ロボットマンと合体していない単体では細身で華奢な印象
メカユニットにより重厚な装備を獲得
13 後輪と高さを揃えるために前輪を奥まで差し込むことができない
前輪を奥まで差し込んだ状態で高さが揃うように取り付け部分の寸法を整えた。さらに、状態を変えても対処できるよう、前輪を延長ジョイントと短い前輪とに分割した
14 操縦装置側面に貼るシールは、箱写真と違ってセットに付属のものでは白地になっている
当時他のミクロマン製品には黒地にメカ表現のシールがよくあるので、箱写真と同じ黒地にした
15 黄色い光条は、地の色が白いとよく見えない
コントラストを上げるため地の色を灰色に変更

 以上、多数の変更点がありますが、どれもさりげなく、説明しなければ気付かないような形で改良を行いました。私にとって元々のドリル戦車セットは強い憧れの対象でしたから、持てる技術の許す限り、造形を模写することを最優先にしています。いわば、旧ドリル戦車セットの開発者が本当に作りたかったものを実現すること、それがこの作品の意味です。

 それから、これは欠点というわけではなかったのですが、シートの後ろの方に鉛直シャフトを通す必要があったため、シートと本体はどうしても分離できない仕様になってしまいました。また、前面にあった中空構造を背面に移すことになりました。

16 シートの前面に中空構造があり、本体から取り外せる
シートの後ろ側に鉛直シャフトが通っている

■ メカユニット導入のコンセプト

 ドリル戦車セットのペーパークラフトを作り始めた頃は、まさか動力や回転機構を組み込むことになるとは思っていませんでした。しかし、本体が完成して見通しが持てるようになると、ロボットマンがなくてもドリルが回ったらいいなと思い、簡単な仕組みで各部を回転させられそうな気がしてきました。本体そのものにそのような仕組みを持たせることはできませんでしたが、メカ部分を別ユニット化することにより、思い描いた動作をさせることに成功しました。以下はメカユニットを導入する際にこだわった点です。

・前後、左右、上下の3軸が連動し、それぞれドリル、スピンギヤ、エネルギーアームを元の位置で回転させる

・転輪はあった方がよさそうなので、どうせならロボットマンのキャタピラと互換性を持たせ、ロボットマンのゴムキャタピラを転輪に流用したり、逆にロボットマンに流用したりできるようにする

・転輪を動かすにはモーター動力の方がいいが、手転がし遊びもできるようにする

・ミニ四駆や模型工作用の部品など、いつでも入手可能なありふれた材料を用いる

・動かしていて楽しくなければならない

・メカユニットの存在感はさりげなく、本体のかっこよさを引き立てるものであること

2020年8月 手転がしの力を3軸に伝えるのに成功、スピンギヤとエネルギーアームはまだ当時品


2022年12月 ミニモーター搭載、全部品をペーパークラフト化
 効果音を加えています

 数え切れないくらい試作を繰り返し、ようやく満足できるものができました。ロボットマンがなくても動くわけですが、ロボットマンとの合体は省略できません。昔からどうしてもやりたかったのはドリル戦車をセットしたロボットマンで遊ぶことですから。ドリル戦車単体、ロボットマンとの合体、メカユニット装着と、3形態それぞれで楽しめます。
 メカユニットを装着したドリル戦車には、「ドリル戦車DX」という名前も付けました。deluxe=豪華版というわけです。DXの読み方についてですが、これを運用するミクロマンの立場なら形式名らしく「ディーエックス」と呼ぶでしょうし、贅沢な気持ちを味わって遊ぼうとする私達の立場では「デラックス」と呼びたくなるでしょうし、どちらでもいいです。
 商品名には「セット」が入っています。これは「部品一式」という意味のほかに「装着」という意味も併せ持っていると考えています。ドリル戦車セットDXという名前も、ミクロマンと私達のどちらの立場で口にするかによって違う意味になるでしょう。

 最後に次のページで、ペーパークラフトの開発に着手してから試行錯誤を重ねてきた様子を時系列にまとめて紹介します。

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