ミクロアース物語 0.24

1980年12月8日

マーク・D・チャップマンは、子どもの頃から「小人」の政府を統治していたという。小人達は、彼の家の居間の壁の中に住んでおり、マークはテレビを通して彼らに話しかけていた。
「私は彼らの生命をコントロールしていました」と、マークは精神科医のダニエル・シュウォーツ博士に語っている。「彼らは私のことを王様のように崇拝していました。」
彼は成長するにつれて、その国を独裁制からしだいに立憲君主制に発展させ、内閣を任命して、数千人の臣下を支配する手助けをさせた。

マークは14歳から24歳までの間、ジョン・レノンに対して、あるいはビートルズに対して特別な関心を持っていなかったのは事実だ。マスコミが彼のことを「狂ったファン」だったと報道したのは大きな誤りである。彼はあの手の音楽が好きだと言うわけではなかったし、とりわけレノンのファンというわけではなかった。また、逮捕後の検査では精神異常も見出されず、根っからの狂人だったというわけでもなかった。

ジョン・レノンは政治的な歌を歌うことがあった。左翼的な活動にも肩入れしたため、アメリカ政府やCIAに監視されていたという見方もある。彼の代表曲「イマジン」などに、とりわけ非暴力・無宗教主義的なメッセージを読み取ることができる。しかしその主張はあからさまなものではなく、独特の遊び心に満ちている。謎めいた歌詞はまるで預言のようだ。例えば、ビートルズ時代の作品「ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイヤモンズ」では次のように歌っている。

何者かが呼びかけると、お前はゆっくり答える「万華鏡のような目の女の子」
黄色と緑のセロハンでできた花、頭上にそびえる
目の中に太陽のある女の子を捜せ
ルーシー、天空にダイヤモンドとともに

預言と言えば、マークはジョンを預言者になぞらえたことがあった。ホテルの部屋の西洋ダンスの上に、殺人を犯したあとで入ってきた警官たちに見せつけるかのように、彼の大事な持ち物を陳列していた。その中にポケット版の聖書があった。彼は「ジョン(ヨハネの英語読み)による福音書」のジョンの後ろにレノンと書き足して“The Gospel According to John Lennon”とし、「マーク(マルコの英語読み)による福音書」の第7章を開けておいた。

《マルコによる福音書 7.6-8》
 イエスは言われた、「イザヤは、あなたがた偽善者について、こう書いているが、それは適切な預言である、
   『この民は、口さきではわたしを敬うが、
   その心はわたしから遠く離れている。
   人間のいましめを教えとして教え、
   無意味にわたしを拝んでいる』。
 あなたがたは、神のいましめをさしおいて、人間の言伝えを固執している」。

キリスト12使徒の一人で福音書を著したヨハネは、新約聖書巻末に収められた「ヨハネの黙示録」の著者バトモス島のヨハネとは別人とされる。生まれの一世代異なる彼らがもし同一人物であると見なせるならば、1940年10月9日生まれのJohnも同一人物で、ジョン・レノンは聖ヨハネの再来だという見方もそれほど飛躍ではないだろう(※広辞苑では一人のヨハネとして記述されている)。

《ヨハネの黙示録 12.7-9》
 さて、天では戦いがあった。ミカエルとその御使たちとが、龍と戦ったのである。龍もその使いたちも応戦したが、
 勝てなかった。そして、もはや天には彼らのおる所がなくなった。
 この巨大な龍、すなわち、悪魔とか、サタンとか呼ばれ、全世界を惑わす年を経たへびは、地に投げ落とされ、その使たちも、もろともに投げ落とされた。

この「龍」は、Luciferと呼ばれる。ラテン語ではルチフェロと言い、「黎明の子、明けの明星」を翻訳したものであった。
《イザヤ書 14.12》
 黎明の子、明けの明星よ、
 あなたは天から落ちてしまった。
 もろもろの国を倒した者よ、
 あなたは切られて地に倒れてしまった。

ルキファーにとって、「現代の預言者」ジョン・レノンは目の上の瘤だったに違いない。1980年、音楽活動を再開したジョンにルキファーは刺客を差し向けた。マーク・チャップマンである。小人達と仲違いをし、サタンを呼び寄せるまでになっていた隙に付け込んだのだ。12月8日午後10時50分、リムジンから降りてダコタ・ハウスに入ろうとするレノンは、待ち構えていたマークのわきを通りすぎた。そのとき、マークの頭の中で「やれ、やれ、やれ」と、くり返す声がした。彼はポケットから銃を取り出して左手に持ちかえ、引き金を5回ひいた。そのうち4発の弾丸がジョンに命中し、彼は倒れた。マークは逃げようともせず、やがて駆けつけた警官に取り押さえられた。

「私は、事件のあった日の夜、彼に会って、じっくり彼を観察しました。彼はまるで、プログラムされているようでした。」(アーサー・オコナー警部補の弁)

マークが小人の国の大臣たちにレノンを殺す計画を持ち出したとき、小人たちはいっさいかかわりを持ちたがらなかった。彼らはショックを受けていた。そこでマークは内閣を解散し、彼らはマークを見捨てた。しかし逮捕後、とくに忠実だったロバートという名前の大臣が久し振りに姿を現わし、自身の内に悪魔を創り出してしまったことによるその悲劇の余波から彼を救い出すために、もう一度評議会を招集することができると働きかけてきた。小人たちには愛着を持っていたが、チャップマンはその申し出を熟考した上、あえてそれを断っている。

独房で彼は「神様に話しかけられて」有罪答弁をするようにといわれた。もしかするとその声の主は、陰謀が明らかになるのを防ぐために、神を模して憑依したアーデン・ライザーやダイガー、ブルター達だったのかもしれない。1981年8月半ば、収容先でマークは突然、凶暴になったことがある。看守達が何とか彼をおさえつけ、病院に連れていった。そこで彼は静かになったが、自分の声とは全く違う2種類の声を使って話をした。そして、その声は、彼を苦しめるためにサタンが送ってきた、ライラとドバーという2人の悪霊の声だといったのだ。獄中で悪魔祓いを行って、7個の邪悪な生き物を嘔吐したのは1985年になってからのことだった。その生き物達は唸り声を上げ、呪いながら牢の壁の向こうへ霧散していった、という。

マークが有罪答弁を変えなかったので、裁判は円滑に進んだ。そして犯行の動機もはっきりしないまま、判決は下った。
「マーク・デイヴィッド・チャップマンは最低禁固刑20年、最高禁固刑終身、ニューヨーク州立刑務所に収監することとする」

マインドコントロールなどの、何者かの陰謀があったかもしれないという公式の調査は一切なされないまま、21世紀になった今もマーク・チャップマンはアッティカ刑務所に服役している。



※ このページを作成するにあたって、以下の文献を参考にしました。なお、引用箇所については改変を加えていないつもりですが、物語の効果を高めるため意図的に引用から外した部分もあり、その結果文献本来の意図が曲げられたように感じることがあるかもしれません。
『誰がジョンレノンを殺したか?』 フェントン・ブレスラー著、島田三蔵訳、音楽の友社発行、1990年
『ジョン・レノンを殺した男』 ジャック・ジョーンズ著、堤雅久訳、リブロポート発行、1995年
『ヨーロッパ T 古代』 ノーマン・デイヴィス著、別宮貞徳訳、共同通信社発行、2000年

※ このページの内容は事実を題材とした虚構であり、実際にはジョン・レノン暗殺事件に聖書やミクロマンの世界観が結びつく余地はありません。


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